東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4452号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告らは商事留置権にもとずく優先弁済権を有していたのだから、たとい競売法に基づく換価手続によらなくとも、当時の最高処分価格たる七〇〇円で売却している以上、被告らの行為には違法性がなく、又破産会社にも損害はないと主張するので、この点につき考える。被告三塚が他に売却した品物は、昭和三五年一〇月一七日、同人が破産会社から搬出したものであるが(この点については当事者間に争いがない)。これはレインコート材料生地として被告会社から一度取得した占有を破産会社に納品することによつて失つた後であるから、商行為により占有を取得したものとはいいがたく、右被告には商事留置権の取得は認められない。
被告瀬谷については、同被告が、他に売却処分した品物は前記の如く昭和三五年八月二二日から同年一〇月五日までの間に、破産会社との縫製加工請負契約にもとずき材料として受取つたものであるがこの点については当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第七号及び弁論の全趣旨によれば、昭和三五年一〇月一四日現在において、被告瀬谷は破産会社に対して金五二二、二二〇円の加工賃債権を有しており、同月末日には少くとも弁済期に達していたと認められ右認定を覆す証拠は存しないので、被告瀬谷は同月末日には右品物につき商法等五二一条による留置権を取得したと認めることができる。
しかし、商事留置権は、破産等の場合には先取特権とみなされる結果として、優先弁済の効力を認められるが、それ以外の場合においては、民事留置権と異るところなく、単に目的物を留置することを本来の効力とするものである。従つて、目的物を換価するに当つては、予め債務者に履行の催告をすることによつて、留置権を消滅させる機会を与えた上で、競売法に従つて行われねばならず、他の債権者にも配当加入の機会を与えることが必要である。従つて、被告瀬谷は、商法第五二一条の留置権を有するからと云つて、同人の前記行為の違法性を阻却するものではない。よつて、被告らの抗弁はいずれも理由がない。(西川豊長)